2016年6月23日木曜日

【第1回】『デスメタルインドネシア』完成しました。中身を複数回に分けてお見せします。


刊行予告の時点で大変な盛り上がりを見せている『デスメタルインドネシア』が完成しました。真ん中に映っているバンドンのブルータルデスメタル王者JasadのボーカルMan氏もリツイートしたりと、インドネシアでも話題になっています。





真正面から見たカバー。白と赤の旗をベースにインドネシアを代表するバンドのフロントマン達が載っています。



『デスメタルインドネシア』は『世界過激音楽』の第2巻で、第1巻は『デスメタルアフリカ』。こちらもタモリ倶楽部で特集が組まれたりと、話題になりました。しかし「アフリカでメタルをやっている」という物珍しさから取り上げたヘンテコリンなバンドが多く、普段鑑賞物として聴くには厳しいバンドが多かったのも事実。しかしインドネシアは世界的にもハイレベルのバンドが多く、紹介されているバンドたちはアフリカとは逆に音楽的に自信を持ってオススメできるものばかり。



しかもあまりにバンドの数が多いので、ページ数も膨れ上げってしまい、『デスメタルアフリカ』の2倍以上。本の厚みだけで見ると、4倍近くある様にさえ見えます。アフリカと異なり、全てのバンドを網羅するのは不可能で、わざわざダサいバンドを取り上げる必要もなかったので、推奨できるバンドのみを厳選したにも関わらず、この分厚さです。『デスメタルアフリカ』は160ページあったのですが、『デスメタルインドネシア』は352ページもあります。

しかも文字の大きさが9級と、相当小さい上に、余白もかなり狭く、この本一冊で67万字もあります。それはどのぐらいかというと、新書が8万字前後と言われているので、新書8冊分ほどもあるのです。ちなみに『デスメタルアフリカ』は28万字で、それもそれでかなり多い方です。


本扉を飾るのはマドゥラ島出身のインドネシア愛国主義ベスチャルメタル、Rajam。なんとこの本でインタビューした直後に急逝されました。その弔いの意味も込めて本扉に掲載。


近年、インドネシアで膨大な数のブルータルデスメタルバンドが登場してきている事は、日本でも一部のブルータルデスメタルマニアにしか知られていませんでした。知っている人は知っているけど、知らない人は全く知りません。


そこでEncyclopaedia Metallumというメタルアーカイブで色々と調査し、数値でインドネシアのブルータルデスメタルがどれだけ盛り上がっているかを算出しました。


その結果、インドネシアのブルータルデスメタルバンドの絶対数は297バンドで、アメリカの736バンドに次ぐ世界2位でした。3位はドイツの156バンド。


2010年から2016年の近年に結成されたブルータデスメタルバンドの伸び率で言うと、インドネシアは世界でダントツの1位。


全メタルバンドの中でブルータルデスメタルが占める割合では、インドネシアは22.42%と、世界一。2位はタイの19.38%、3位はフィリピンの19.38%と、東南アジア勢が上位を独占しています。


こうしたグラフでインドネシアのブルータルデスメタルの凄さを立証しました。なので副題の「世界2位のブルータルデスメタル大国」は大げさでもなんでもなく、本当の話なのです。


しかもアメリカのバンドに較べて、インドネシアのバンドはEncylopaedia Mettalumなどのオンラインデータベースで登録されていないものが、かなり潜んでおり、実際にはこの数より更に多く存在すると予想されます。



そしてここからが本編ですが、まず第一章は首都のジャカルタ。そしてその中でもトップバッターがジャカルタのデスメタル界の中心バンドSkisakubur。このバンドに在籍した経験のあるメンバーによって、他のバンドが多く結成されるなど、シーンの中心的な存在。


次に出てくるのはTengkorakというグラインドコア。彼らはイスラムの教えをメタルと融合させた「One Finger Movement」という運動を提唱し、支持を得てきています。


日本のマニアの間では最も知名度が高いと見られる、Bloody Gore。実は今バンド名はFuneral Inceptionに変わっています。インドネシアというとカンカンスネアが有名ですが、その代名詞といえるバンドです。右は日本でも有名なGrind Butoという打ち込みグラインドバンドで、メンバーが突然死。


世界各地、そしてネパールやモンゴルなど辺境までツアーした経験もある、日本のデスメタルを代表するDefiledのインドネシアツアーレポートもあります。バンドマンの視点で、インドネシアで体験したエピソードを教えてもらいました。


デスメタルが全面開花するに至るまでの下地を築き上げた大御所スラッシュメタルSucker Headなど重要バンドもきちんと紹介。


実はインドネシア出身のメタルバンドとしては、恐らく世界一有名なKekal。Last.fmでもリスナー数が1万人超えとダントツです。相当アヴァンギャルドな事をやっており、日本でも評価する人が大勢います。


Seringaiという人気ストーナーバンドや、Children of Gazaというパレスチナ支援を標榜するフォークメタルなど、周辺的なジャンルのバンド、個性的なバンドも紹介。


そのChildren of Gazaのボーカルは、先の大統領選でプラボゥオの応援ソングに出演したのですが、ネオナチを想起させるして、世界的に波紋を呼びました。また上記、Tengkorakが提唱したイスラムメタル運動One Finger Movementを説明したコラムなど、インドネシアのメタルシーン特有の現象を解説しています。


ブルータルデスメタルが盛んな一方で、ブラックメタルは盛り上がりに欠けますが、その中でもクォリティの高いバンドは幾つかいて、Vallenduskは世界的にも評価の高いポストブラック。彼らにはインタビューもしています。


ジャカルタでは近年、Hammersonicという超大規模メタルフェスが開催されています。ラインナップを見ると、Cannibal CorpseやCradle of Filth、Nile、Suffocation、Terrorizer、Morbid Angel、Obituary、Hate Breed、Lamb of God、Originなど欧米の超大御所を大量に呼び寄せており、東半球で最大のエクストリーム・メタル祭典と化しています。


インドネシアは辺境プログレファンの熱い眼差しを受けてきた事でも有名で、その中でも人気の高いDiscus。彼らは相当テクニカルでオリジナリティのある曲を作っており、デスメタルバンドとも合作していたりと影響力も大きいのですが、彼らの8ページに渡る超ロングインタビューも掲載しています。告知後、このDiscusのインタビューだけでも買う価値があると言うプログレマニアも多数いました。デスメタルだけではなく、インドネシアのロックやメタル全体像を理解する上でも必須のバンドといえるようです。


しかし今のインドネシアはなんと言ってもブルータルデスメタル。あまりにも数が多すぎて、全てのバンドをバンド単位で紹介するのは不可能なので、特に評価に値するバンドのアルバムをレビューという形で数多く紹介しています。ざっと見る限り、ジャカルタのこの部分だけでも、KerangkenkやSperma Reject、Hellskuad、Absolute Defianceなど日本の出版物の活字に載るのが奇跡とも言える様な、インドネシア本国以外ではあんまりというか、ほとんど知られていないアンダーグラウンドなブルタールデスメタルが数多く紹介されています。


バンド紹介だけでなく、インドネシアのシーンの要となるレーベルたちも紹介。これはBrutal Infection Recordsで、国父スカルノを敬愛する愛国的な姿勢が顕著。


……とここまでがジャカルタで、まだ本全体の3分の1でしかありません。実はジャカルタよりもバンドンのシーンの方が俄然盛り上がっているらしいのです。この本の見どころは他にもこの後、膨大にあるのですが、記事が長くなってしまうため、一旦ここで区切ります。また近日中に他の章を紹介します。


という訳で『デスメタルインドネシア』、本自体は無事に完成しました。まだ書店に並ぶまであとしばらく掛かりますが、ご期待ください。






2016年6月15日水曜日

『デスメタルインドネシア』が出ます!


『デスメタルインドネシア』が出ます。『デスメタルアフリカ』に続き、『世界過激音楽』の第二弾です。著者はAsian Rock Risingを主宰されている小笠原和生さん。


Asian Rock Rising Asian Rock Risingは日本随一のアジア・辺境メタルディストロとして有名です。


アフリカとは打って変わってインドネシアは近年、ブルータルデスメタルが盛んになってきている事で知られています。Encyclopaedia Metallumで調べたところ、インドネシアのブルータルデスメタルバンドは297バンドもおり、アメリカの736バンドの次に多く、世界で2番目の数。なお3番目はドイツの156バンドでした。


またここ数年の増加割合は欧米に較べて遥かに多く、しかもインドネシアの場合、欧米のバンドに較べてきちんとネットに登録されているバンドが少ないので、実態としては更に多く存在する可能性が高いのです。


一昔前までは、インドネシアというと「カンカンスネア」が特徴とされ、B級臭いものも多かったのですが、今ではNew Standard Eliteなど欧米名門レーベルに所属する、世界最先端のブルータルなサウンドを追究するバンドも増えてきました。もはや音的には欧米に対して引けを取っているとは全く言えず、むしろ世界第一線に位置すると言えるでしょう。


そもそもインドネシアのジョコ・ウィドド大統領自身がメタルファンである事で知られ、他にもメタル好きを公言する市長や県知事がいます。また小学生もデスメタルのライブ会場にいたり、実の息子にドラムをやらせるバンドもいます。


こうした事からインドネシアが、アメリカに次ぐ世界で2番目の規模のブルータルデスメタルシーンを形成しつつある事が分かります。


インドネシアは世界4位の人口2億5千万人を擁しており、スシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領の善政によって、中産階級が増大してきています。また元々、ガムランやダンドゥット・ファンコット・プログレが盛んな音楽大国で知られ、手先が器用な国民性と言われています。そうした下地があって、今まさに全面開花したと言えるでしょう。


さてそんな一部の人にしか知られていないインドネシアのデスメタルシーン。長年、インドネシアだけでなく、アジアや辺境のメタルシーンをウォッチされてきた小笠原さんに、シーンの核となる重要バンドを紹介してもらい、多くのバンドにインタビューをしました。


またジャワだけでなく、スラウェシ島やカリマンタン島は当然、インドネシアから独立した東ティモールや、イスラム法で統治されるアチェなどの辺境も徹底調査しました。


インドネシアの特にバンドンのデスメタルシーンを社会学、カルチュラルスタディーズとして研究しているオーストラリアの学者にもインタビューしました。


そして日本でも伝説の辺境プログレとして知られるDiscusや、インドネシアツアーを敢行した日本のデスメタルDefiledにもインタビューしました。


インドネシアはハードコアパンク大国としても知られていますが、その方面に詳しい、RNR TOURSのRyouhei Wakita氏にも「インドネシアンパンク名盤」を紹介してもらっています。


そしてインドネシアは世界最大のイスラム教徒を擁する国としても知られていますが、イスラムの教えに則ってメタルを実践する「One Finger Movement」なる活動も勃興しており、そうしたインドネシア特有の現象についてのコラムなども複数設けています。


そして執筆している合間にも取り上げるべきバンドが無尽蔵に登場してしまい、当初の予定を大幅に超えて、結果的に前巻『デスメタルアフリカ』の2.2倍のページに値する352ページにもなってしまいました。かなり分厚いです。


もはや音楽ガイド本というよりは、学術書とか辞典に近い形になっています。それでも全てを網羅する事は不可能でしたが。そしてアフリカと違って、面白おかしかったり、マヌケなバンドは少なく、純粋に音楽として格好よく、日常的に聴きたくなるバンドが大勢紹介されています。デスメタルマニアも納得の一冊に仕上がっています。


私、ハマザキカクもブルータルデスメタルのレビューや、辺境レポート、インタビューなど随所で原稿を執筆しています。


現在、印刷が始まっており、早ければ本が店頭に並ぶのは7月5日頃です。是非、ご購入頂ければ幸いです。